【はじめに】壁を壊す音が、心を壊していないか?
リフォーム。それは「暮らしをよくする」という名のもとに行われる、ちょっとした工事、あるいは大規模な解体。そしてそこには、見落とされがちな“暴力”が潜んでいる。
え? まさかと思うかもしれない。
けれど、あなたのその「便利な暮らしへの欲望」は、誰かの記憶を塗りつぶし、生活のリズムを壊し、心をざらつかせているかもしれない。
――そう、ケアのないリフォームは、もはや“優しさを装った暴力”なのだ。
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【第1章】なぜ“ケア”のないリフォームは暴力なのか?
暴力とは、物理的な殴打だけではない。
生活習慣の破壊、記憶の抹消、そして「大事にされていない」と感じさせる行為の積み重ね。
それらは、音もなく人の尊厳を奪っていく。
● ケアなきデザインとは何か?
・バリアフリーなのに“使いづらい”
・断熱工事なのに“息苦しい”
・おしゃれだけど“落ち着かない”空間
それは、施主の「本当の声」を聞かないまま、施工側の“正しさ”を押しつけた結果だ。
つまり、言い換えれば“ケアしないこと”=“暴力”なのだ。
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【第2章】「自分の家なのに、落ち着かない」という呪い
これは実話だ。
築30年の戸建住宅を「今風に」フルリノベーションしたある家庭。
住み始めて3か月後、子どもが「ここ、前の家じゃないみたいで嫌だ」と言った。
古い柱に刻まれていた身長の記録は消され、父が日曜大工で作った棚は捨てられ、
祖母が毎朝使っていた流しは「汚いから」と新品に替えられた。
見た目は「キレイになった家」
でも、そこに宿っていた記憶と意味は、誰にも聞かれないまま“取り壊された”のだ。
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【第3章】住宅は「商品」ではなく「身体」である
リフォームを“商品化”する動きが加速している。
「早い・安い・便利」
「おしゃれ・清潔・最新設備」
だが、それはまるで人間を「健康・若さ・効率」でしか評価しない社会の縮図でもある。
人間の身体は、機械ではない。
同様に、住宅も「暮らしという営み」を抱える生き物のような存在であるべきだ。
だからこそ、リフォームは“医療”に似ている。
問診があり、診断があり、経過観察がある。
痛みを知り、癖を知り、家そのものと“対話”する必要があるのだ。
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【第4章】なぜケアは無視されるのか? その構造的な理由
● 「正しさ」の暴走
施工者の論理:「これが正しい工法です」
行政の論理:「補助金の対象はこちらです」
営業マンの論理:「今ならキャンペーン価格です」
――その“正しさ”が、住み手の“違和感”を踏みにじっている。
● 「価格勝負」の末路
「他社より5万円安くできます!」
「今なら無料で点検します!」
それらは、住まいへの“関心”や“愛着”を、単なる“商品価値”へと引き下げる行為だ。
ケアの不在とは、つまり“想像力の欠如”である。
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【第5章】「ケアのあるリフォーム」とは何か?
じゃあ、どうすればいいのか?
答えは単純で、でも深い。
“問うこと”。それがすべての始まりである。
・なぜ今、工事が必要なのか?
・この空間に、どんな記憶があるのか?
・誰のためのリフォームなのか?
それを一つ一つ対話しながら、形にしていく。
「柱一本を残す」ことも、立派な“ケア”だし、
「古いドアノブを磨いて使う」ことも、尊い選択だ。
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【第6章】反論:いや、リフォームは効率と合理性が大事では?
そういう声も当然ある。
・高齢者には手すりが必要だし
・古い設備は漏水や火災のリスクがある
・耐震強度を満たさなければ危険だ
…まったくその通りだ。
だが、問題は「どのように」やるかなのだ。
例えば、古い流し台を撤去する前に、
「これはおばあちゃんが毎朝、漬物を洗っていた流しなんですよね」とひとこと添えるだけで、
住まい手の“心の整理”が全く違うものになる。
それが“ケア”だ。
効率と感情は、対立するものではない。
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【第7章】現場から見たケアの実践
私がリフォーム現場で学んだ最大のことは、
「人は、住まいを通して、自分の人生を確かめようとする」ということ。
「この壁の中に、父が埋めた配線があるんです」
「この窓からの夕日が、母の看取りの風景でした」
「この床に、子どもの落書きがありました」
その“語られざる記憶”に耳を澄ますとき、
リフォームは、ただの工事ではなくなる。
それは、人生と住まいを丁寧に縫い直す作業だ。
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【第8章】“ケアのある社会”は、リフォームから始まる
ケアとは、見えない痛みに目を向ける力であり、
「言わなくても分かってほしい」を、言語化しようとする試みである。
もし、私たちの社会がケアに満ちていれば――
きっと、家も、地域も、国も、もっとやさしい構造になっていくはずだ。
だから私は声を大にして言いたい。
「ケアのないリフォームは、暴力である」
そしてその逆もまた真実である。
「ケアのあるリフォームは、癒しである」
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【まとめ】すべての家に、声がある
最後に。
あなたがこれからリフォームを考えるとき、
もしも「これ、前のままの方がいいんじゃないか」と思ったなら――
それは、家があなたに語りかけている証拠だ。
ケアとは、「聞くこと」から始まる。
暴力とは、「聞かないこと」から始まる。
今、静かな部屋に耳を澄ませてみよう。
そこに、忘れかけていた“声”が、きっと聞こえてくるはずだ。

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